夢現
徒然綴る創作小説のようなもの。ほぼ自己満足。http://sappe.fc2web.com

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音の行方                 
 何か用事があって平日の真昼間にこんな雑踏の中心に立っていたはずなのに、いざその場に来たら用事をすっぱりと忘れてしまった。恥ずかしさと同時に人の群れに立つ自分に対しての嫌悪感がこみ上げてきてしまい思わず嘔吐しそうになっていた。そんなことをしては、余計に恥ずかしさと情けなさと嫌悪感がこみ上げるだけなのに。
「…………」
 そんな時、いつも両手で耳を塞いだ。『五月蠅い』という意思表示。傍から見れば印象が悪いことこの上ないが、それでも人が群れたことで発生する雑音をわずかに軽減できるのだから万々歳なのだ。両手で耳を塞いでいる間だけ、本来鼓膜を通じて「音」として認識されるものが行き先を失って消失する。届くはずの音が行方不明になる。あり得ないけれど、そんな感覚に陥る。何も聞こえない、無音の時間。お陰で周囲の出来事は視界からでないと情報として得ることができなくなるが、至福の時をむげに扱うことなどできないのだ。
「あぶ――いっ」
「…………?」
 ほんの少しだけ音が侵入してきて、その音がなんというものだったのかを認識する前に何かが体全体に触れた。そして、あっけなく吹き飛ばした。両手は耳を離れ、だらりと筋肉による制御を拒否する。受け身なんて言葉が存在しないように乱雑に、地面に落下し転がった。人の群れが騒いでいる。何事かを耳元で喚く。
――ああ、そうか。用事とはこのことだったのか。思い出せてよかった。
 だから、必死に叫び、手を取った誰かに、無駄な心配をかけたくないと思った。
「しに、た、」

――最後に発した音は、どこへいったのだろうか。
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