夢現
徒然綴る創作小説のようなもの。ほぼ自己満足。http://sappe.fc2web.com

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嘘                 
 その日、初めて嘘をついた。
 「初めて」、といっても生まれて十数年間の記憶が抜け落ちているのだから、あるはずの彼との思い出も皆無といっていい。過去について何かを話そうとするとき、彼と新しい記憶を共有するとき、それは嘘をついたと言ってもいいはずだ。それでも、「嘘だ」と自覚するほど明確な嘘をついたのはその日が初めてだった。
 自身について多くを語らない彼には弟がいた。正確には、妹と、弟。僕はその弟の親友、だそうだ。だが、僕はその事実を覚えていない。知らないのだ。けれど先日油断した彼が弟の話題を口にしたときの表情がなんともさびしげで切なげで、儚くて。それと同時に愛らしく思ってしまった。
 だから、その日。
「クラン、という方をご存知ですか?」
 ふと思い出したように繕って、彼がつぶやいた弟だろう名前を口にして問うてみた。すると彼は驚いた表情を見せながらも、
「……知ってるよ。俺の年の離れた弟で、お前の、親友」
嬉しさと悲しさを絶妙に織り交ぜた笑顔で、そう答えた。それ以上聞いてもいけないし、話してもいけない。そんな気がして。
「そう、ですか……。いつかお会い出来るといいですね、久しぶりに」
 その親友に会うことが出来ないのだと彼の表情から悟れたのに、気付かないふりをしてそう言った。
「そうしてくれ。あいつも喜ぶ」
 今度は普段と変わらない調子で彼が言うと、優しく頭に手を伸ばし撫でてくる。
「……子供扱いしないで下さい」
「はいはい」
「…………っ」
 正直、自分の失った記憶には興味がない。目的が達成できるのならば、取り戻さなくてもいいとさえ思っている。
 けれど。
 彼にあの笑顔をさせないように思い出そうとあがくのもいいかもしれないと、少しだけ思った。
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