夢現
徒然綴る創作小説のようなもの。ほぼ自己満足。http://sappe.fc2web.com

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音の行方                 
 何か用事があって平日の真昼間にこんな雑踏の中心に立っていたはずなのに、いざその場に来たら用事をすっぱりと忘れてしまった。恥ずかしさと同時に人の群れに立つ自分に対しての嫌悪感がこみ上げてきてしまい思わず嘔吐しそうになっていた。そんなことをしては、余計に恥ずかしさと情けなさと嫌悪感がこみ上げるだけなのに。
「…………」
 そんな時、いつも両手で耳を塞いだ。『五月蠅い』という意思表示。傍から見れば印象が悪いことこの上ないが、それでも人が群れたことで発生する雑音をわずかに軽減できるのだから万々歳なのだ。両手で耳を塞いでいる間だけ、本来鼓膜を通じて「音」として認識されるものが行き先を失って消失する。届くはずの音が行方不明になる。あり得ないけれど、そんな感覚に陥る。何も聞こえない、無音の時間。お陰で周囲の出来事は視界からでないと情報として得ることができなくなるが、至福の時をむげに扱うことなどできないのだ。
「あぶ――いっ」
「…………?」
 ほんの少しだけ音が侵入してきて、その音がなんというものだったのかを認識する前に何かが体全体に触れた。そして、あっけなく吹き飛ばした。両手は耳を離れ、だらりと筋肉による制御を拒否する。受け身なんて言葉が存在しないように乱雑に、地面に落下し転がった。人の群れが騒いでいる。何事かを耳元で喚く。
――ああ、そうか。用事とはこのことだったのか。思い出せてよかった。
 だから、必死に叫び、手を取った誰かに、無駄な心配をかけたくないと思った。
「しに、た、」

――最後に発した音は、どこへいったのだろうか。
: 創作 : - : - : posted by さや :
矛盾点                 
「どうも頭の中でこんがらがっているから、何かお題をくれませんか」
「お題、ですか」
「今日は作業すると思ってもみなかったので、作業道具を持ってきていないのです。新しく作るとすれば、何かアイディアが欲しいなという心境にありまして」
「それじゃあ、この子達を差し上げましょう。ふと思い立って作り上げたはいいのですが、私の思う世界は壮大すぎてこの子達の扱いに困っていまして」
「え、いや、でも私はお題をいただければそれで……」
「どうぞご遠慮なさらずに。私じゃこの子達をこのままお蔵入りにしてしまうだけですから」
「は、はあ……どうも……」

「この二人の関係性なんですが、こういったのがいいかなと」
「ふむふむ。それではこの子達を取り巻く環境というのは……。――その役割の意味とはなんでしょう?」
「やはり、この子はこうした状態にあってこのような性格付けが成されたのだと思うのですよ」
「それよりもこんなのはどうでしょう?その子とこの子が実はこうであって、それによってこれが……」
「そうですか……少しお待ちください、いまいい案が出そうなのです」
「それじゃあ、その役割は世界の各国に一人ずついる、というのはどうでしょう?この子が善で、この子が悪の立場で」
「ですから、少しお待ちください」

「――とまぁ、こんな感じです。私はいつもキャラクターや誰かのセリフが出てきてから話を作るもので……」
「そうなんですか。私はいつも世界観から作っていますね。だからつい熱くなってしまう」

「とりあえずこんなものでしょうか……」
「いいんじゃないんですか? あとはその二人の設定で何を言いたいのか、ということですが」
「そうです、ね」
「なんだかんだ言って私も手伝ってしまいましたね。あとはそちらにお任せしても大丈夫でしょう。はっは」
「とりあえず、がんばります……」

………。



「『差し上げる』と言ったのはそちらなのですから、私に譲渡した時点で手を出さないでいただきたかったのに。考えつかない、と仰言いながらあれだけ案が出てきていたではないですか。ならば簡単に里子に出さない方があの子達のためですよ。以前の子達も、そちらの発想で危うく私の子の世界の摂理が壊れてしまうところでしたから。きっとその子達の物語を創りだすタイミングではなかった、ただそれだけなのだと思いますよ」
: 創作 : - : - : posted by さや :
嘘                 
 その日、初めて嘘をついた。
 「初めて」、といっても生まれて十数年間の記憶が抜け落ちているのだから、あるはずの彼との思い出も皆無といっていい。過去について何かを話そうとするとき、彼と新しい記憶を共有するとき、それは嘘をついたと言ってもいいはずだ。それでも、「嘘だ」と自覚するほど明確な嘘をついたのはその日が初めてだった。
 自身について多くを語らない彼には弟がいた。正確には、妹と、弟。僕はその弟の親友、だそうだ。だが、僕はその事実を覚えていない。知らないのだ。けれど先日油断した彼が弟の話題を口にしたときの表情がなんともさびしげで切なげで、儚くて。それと同時に愛らしく思ってしまった。
 だから、その日。
「クラン、という方をご存知ですか?」
 ふと思い出したように繕って、彼がつぶやいた弟だろう名前を口にして問うてみた。すると彼は驚いた表情を見せながらも、
「……知ってるよ。俺の年の離れた弟で、お前の、親友」
嬉しさと悲しさを絶妙に織り交ぜた笑顔で、そう答えた。それ以上聞いてもいけないし、話してもいけない。そんな気がして。
「そう、ですか……。いつかお会い出来るといいですね、久しぶりに」
 その親友に会うことが出来ないのだと彼の表情から悟れたのに、気付かないふりをしてそう言った。
「そうしてくれ。あいつも喜ぶ」
 今度は普段と変わらない調子で彼が言うと、優しく頭に手を伸ばし撫でてくる。
「……子供扱いしないで下さい」
「はいはい」
「…………っ」
 正直、自分の失った記憶には興味がない。目的が達成できるのならば、取り戻さなくてもいいとさえ思っている。
 けれど。
 彼にあの笑顔をさせないように思い出そうとあがくのもいいかもしれないと、少しだけ思った。
: 創作 : comments(0) : trackbacks(0) : posted by さや :
在宅確認                 
「こんにちは」
「あら、今日は。お久し振りですね」
 昔ながらの木材とすりガラスで構成された引き戸をしとやかに開けながら、友人の奥方が笑顔で出迎えた。黒檀のように黒く美しい髪を結わずに、肩の上を自由に滑らせている。奥ゆかしさと上品さを兼ね備えた美しい笑顔だったが、どこか貼りついたような笑顔にも見受けられた。
「それで、どうなすったのかしら?なにか御用でも?」
 奥方は笑顔のまま私へと聞いて、小首を傾げる。引き戸に添えた両手の白い指が、かすかに震えている。
「えぇ、今日用があってこっちへ出て来たついでにこちらへ顔を見せると彼と約束していたもので」
 都会に住む私と、自然豊かな田舎に住む若い夫婦。私とこの奥方の旦那が昔馴染みだった事が起因して、夏の間よく逗留することもあった。今日はたまたま近くによる用事があったものだから、数日前に彼と約束をしていたのだ。
 それを聞いた奥方の笑顔がさっと消え、無表情とも、怒りに満ちたとも言えるなんとも不気味な表情をして見せた。
「主人は居ません」
 私の言葉に即答に近い形で奥方は答えるも、私の驚き顔に気付きすぐ元の笑顔に戻して言葉を続けた。
「大変申し訳ないのですけれど……、主人は今しがた出掛けてしまいまして、今居ないんですの」
 残念そうな表情で言う奥方を見下ろしながら、「そうなんですか?」と私は聞き返した。
「おかしいなぁ、この時間に寄るから忘れないでくれ賜えよ、と強く言っておいたはずなんですが。彼は約束を守る男だって、奥さんもご存知でしょう?」
 奥方は引き戸に爪を食いこませながら、「そんなの知りませんわ」と切り捨てるように言った。
「彼は居ません。彼は居ません。彼は居ません。彼は居ません。彼は居ません。先程もお答えしたように、彼は出掛けてしまったんです。彼はいってしまったんですのよ。ですからここに彼は居ません。彼は在宅しておりません」
 先程の柔らかな人柄はどこへやら、憎悪の念を抱いた人間の低い声で呪文のように言葉を繰り返した。
「私を愛してくれていた彼はもうどこにもおりませんの」
 独り言のように呟いた奥方の言葉に、私はにこりと微笑む。
「それなら、仕方ないですね。では私はこれでおいとましましょう、長々失礼致しました。それじゃあ、彼に伝言をお願い出来ますか」
「ええ、お安い御用ですわ」
 黒い髪から滴る赤い雫を気にする事も無く、奥方が嬉しそうに微笑んだ。

 小さく丁寧に会釈をした若い男が、田舎道に消えて行った。玄関先でその姿に手を振りながら見送った男より少し年上の女は引き戸を閉める事無く服の裾を汚さないよう気を付けながらその場にしゃがみこんだ。
「つい今しがた、ご友人が訪ねていらしたわよ。会えなくて残念がっていらしたわ」
 女はどこか楽しそうに、目の前に居る夫へと話しかける。夫は妻を見る事も無く、返事すらしない。
「そうそう、彼から伝言を賜りましたの。ちゃんと守って差し上げてね?」
 女の目線の先に居る夫は、玄関にうつ伏せになって倒れていた。右腕を精一杯前へ伸ばし、まるで引き戸を求めるかのような格好で背中の中央に何かを突き立てたまま、そこから白いワイシャツや地面を汚してしまっていた。

「あの世ではきちんとした格好で出迎えてくれ、ですって」

 女は優しく告げると、小さく息を吐いて立ち上がり、悩ましげに言葉を吐き出した。
「さてと。この人どうやって始末しましょうか」
: 創作 : - : - : posted by さや :
会話                 
「その事実の上では、誰が犯人なのかしら?」
 上品な、それでいてどこか騒がしい小鳥のような矛盾した声音で、彼女が聞く。
「そんなものは知りませんよ。私は探偵でも刑事でも、ましてその犯人でもない」
「それもそうね。貴方はただの人間でしたわね」
「ご理解いただけたようで、恐れ入ります」
 不思議な会話を成り立たせて、私は席を立った。彼女は読みかけの推理小説を頭上に掲げ、
「それじゃあ、私は帰らせて頂きますわ。第三者の視点なら、犯人が分かるかと思ったけれど全然ね」
溜め息と共にくすくすと笑った。私も同じように溜め息を吐き、彼女に背を向ける。
「それは仕方ありませんよ。なんせ貴女はそういう立ちまわりの方なのですから」
「それもそうね。では私は犯人捜しを探偵と貴方の頭脳に任せてみることにするわ。ちゃんと見つけてね?じゃないと、私は死ぬ事になっているのだから。いつ殺されてどんな状況なのか分かってしまっているのはルール違反だけど、だからこそ恐ろしいものだもの」
 彼女は厄介事を楽しむかのように笑い、最後に「またお会いしましょう」と言って私が読みかけの本を閉じた。振り向くと、彼女の姿はなかった。

 とある頁で、「彼女」は殺害されていた。とても無残で、残忍で、けれどどこか芸術のように飾られた死。殺害現場で彼女を見つけた人々は驚き、恐れ慄き、涙を流す。探偵はまた被害者を増やしてしまった自分への不甲斐無さに自己嫌悪しながらも、彼女を殺害した……彼女「達」を殺害した犯人への怒りをあらわにする。そんな描写の数々。

 さて、今日の読書はここまでにしよう。「彼女」のための「犯人探し」は、また明日。
: 創作 : - : - : posted by さや :
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